TL;DR

平凡な会社員が辞表を出すまでの葛藤と妄想。「ペイ情熱」を貫いてきた彼が、なぜゲストハウス運営者に転身したのか。ソウル東大門で始まった「ハフェタル(脱社畜)」の記録。

文:ソウルダルビット ゲストハウス 運営者 チョン・スンホ

ソウルダルビット ゲストハウス 東大門店(本店) 住所:ソウル市鍾路区昌信洞329-18 客室タイプ:小型ツインルーム、小型ダブルルーム、一般ツインルーム 共用施設:リビング・キッチン、屋上庭園 周辺観光地:ナクサン公園、興仁之門、DDP、昌信洞文具玩具市場、東廟ノミの市

ソウルダルビット ゲストハウス DDP店(支店) 住所:ソウル市中区奨忠洞2街74 客室タイプ:ダブルルーム、ファミリールーム(3人、4人、6人) 共用施設:リビング・キッチン、屋上庭園 周辺観光地:奨忠体育館、南山、光煕門、清渓川など

ソウルダルビット ゲストハウス SNS ホームページ:http://seouldalbit.com Instagram:@seoul_dalbit

プロローグ

2017年2月8日、まだ氷点下の寒さに体が縮こまる日。

取るに足らない会社員は、オフィスに早く出社した。

普段から「もらった分だけ働く」ペイ情熱という姿勢を貫き、勤勉と誠実が美徳とされる韓国の労働環境に対し、ささやかな反抗をしていた僕だった。

だが、この日だけは早く出勤したかった。業務で慌ただしい勤務時間を避けたい気持ちもあったが、一晩中眠れず夜明け前に目が覚めてしまったことが大きかった。定時出勤の1時間前、早朝のオフィスは静まり返っていた。重い静寂を背景に、頭の中ではあらゆる考えが交錯した。

どう話を切り出そう? どんな反応が返ってくるだろう? どんな表情をすればいい? あれこれ悩んで頭がざわつく間に、ひとり、ふたりと人々が出勤してきた。30分ほど経った頃だろうか、その日僕が向き合う最も重要な相手、チーム長が出勤した。

「あれ、今日はめずらしく早いな」

いぶかしげな挨拶を受けた。いつも出勤時間5分前に慌てて駆け込んでくるヤツが、朝早くから席に座っていたのだから、当然だった。

「はい、突然ですが、お話があって……」

気まずいタイミングでガバッと立ち上がり、震える声で切り出した。

そして、取るに足らない会社員は、懐から**辞職書(사직서)**の三文字が書かれた封筒を取り出した。

会社を辞めると決めるのは早かったが、いつ、どう言うかのほうが実はもっと辛かった。(Photo By Nik MacMillan on Unsplash)

懐から取り出した辞表なんて、こんな陳腐なクリシェがあるだろうか。

会社を辞めると決めるのは比較的早かったが、いつ、どう言葉にするか、という悩みのほうが実はずっと辛かった。

それまでさまざまな空想を繰り広げていた。たとえば、

状況1: 「もうこんな会社辞めてやる!」とわめき散らして、イカれた奴みたいに荷物をまとめて飛び出す

状況2: {祝}「奴隷脱出」{祝} という横断幕を作って、奇襲的に掲げる

状況3:会社全体の社員に 「辞めます ^0^」 と陽気にメールをばらまく

などなど……あれこれ妄想し、ひとりでシナリオを描いていた取るに足らない会社員だったが、数々の葛藤の末にとった行動は、懐から取り出した辞表——クリシェそのものだった。だがその行動が、どれほど型にはまったものであろうと、僕は結局、辞表を提出してしまった。それまで頭の中で描いたあらゆるケースは、その瞬間から消え去り、現実はただ一つに定まった。

僕は、会社を脱出する。

運命の日、取るに足らない会社員が実際に取り出した「辞職の言葉」の一部。

2014年1月から2017年3月まで、約3年2ヶ月間の会社員生活はこうして終わった。3年2ヶ月、僕が最も多くの時間を過ごした空間であり、最も頻繁に顔を合わせる人々と過ごし、そして一時は人生をここで全うしようとまで考えたその場所、会社。この脱出は、ただつらくて、数日考えて吐き出した衝動的な行動では決してなかった。終わりの見えないショーシャンク刑務所の壁をスプーンで一握りずつ削るように、取るに足らない会社員の脱出計画は2年前、2015年の春から始まっていた。

僕らの親世代までは、立派な職場で安定した収入を得ながら、定年まで会社と人生を共にするのが当然とされていた。

しかし世界は変わった。悪い方へ。若者は針の穴のような就職の門の前で喘いでいるが、いざ社会人になっても、昼夜週末なく会社に人生を捧げたところで、家一軒買うのも難しいのが現実だ。なんとか耐えて40代になれば、自分の席ひとつ守るのも難しい、切ない中年の人生が待っている。俗に言う地獄(Hell)のような世の中だ。

世の中が厳しくなるほど、より安定した生活を求めて公的機関に流れる人々が爆発的に増えたが、逆に足枷に縛られず、一度きりの人生を生きたいように生きるために、職場という枷から抜け出す人々も増えている。

世間では退職を準備する人々のための本が出版され、テレビでは辞表を出す若者の姿が堂々と映し出されている。社会の認識もまた、退職という行動が「嫌になって投げ出す」といった逃避ではなく、「やりたいことができる」自由のための脱出として捉えられ始めた。

僕もまた2017年3月、退職とともに会社員人生を卒業し、今はゲストハウスのオーナーとなった。心強いビジネスパートナーとともに、店舗はまだ拡張を始めたばかりで、従業員は片手の指を超えたところ、感謝すべき人々は両手で数え切れないほどで、通帳残高は……悲しい方向でノーコメント。

退職後の自営業という人生は、ロマンなどなく、積み上がる仕事に追われ、客や取引先対応に追われ、毎月の売上と残高を心配する立場だが、とにかく足枷が外れた自由のおかげで、自分の手で作る日々が楽しい。

これから連載することになるハフェタル——取るに足らない会社員の脱出記は、2015年から自分のビジネスを構想し、オープンに至る過程を紹介したい。そして余裕があれば、事業運営者と会社員という二つの軸の間で感じた感情、そして2017年の退職決行後、新米社長としての様々な思いも綴っていきたい。

会社に通っていた頃より今のほうが不規則で忙しい生活だが、時間を削って文章を書くのには二つの理由がある。僕がしたのと似た悩みを抱えているであろう、数え切れないこの時代の会社員たちに、少しでも参考になればという気持ちが一つ。そして、自分自身がどのようにビジネスを準備し、どんな考えで選択し行動したのか、振り返りながら整理したい気持ちがもう一つ。

それでは、みなさん、

ハフェタル——取るに足らない会社員の脱出記、いま始まります。

[連載目次]

2019.01 プロローグ 2019.02 目覚める 2019.03 空想する 2019.04 観察する 2019.05 構想する 2019.06 出会い 2019.07 ときめく 2019.08 息を整える 2019.09 計算 2019.10 迷う 2019.11 最初の一歩 2019.12 つくられる 2020.01 グランドオープン 2020.02 エピローグ — 退職過程まとめ

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